賃金

賃金規程を変更したら忘れずに届出。手続きの流れと注意点を分かり易く解説。

就業規則の作成、人事評価、賃金制度の導入支援を専門とする社会保険労務士 清水良訓が

賃金規程を変更した際の届出の手順と注意点について、

中小企業経営者様に役立つ情報をお伝えしています。

この記事の対象者

・賃金規程を変更したのはいいが、届出の方法が分からない?

・賃金規程を変更した際の届出に必要な書類は?

・賃金規程を変更したら必ず届出する必要があるの?

・賃金規程を変更した際の届出の注意点は?

賃金規程を変更した際の届出についてこういった疑問やお悩みなどを持たれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

労働基準法では、常時10人以上の従業員を雇う会社は、賃金規程や就業規則を作成し、労働基準監督署に届出をする義務があります。

また、変更した際にも届出が必要です。

賃金規程を変更し届出をする前に知っておくべき、賃金規程の届出の手順と注意点についてご紹介します。

賃金規程の変更に伴う届出手続きの3ステップ

賃金規程の内容は会社が一方的に変更することができますが

 

step
1
従業員代表の意見徴収

step
2
労働基準監督署への届出

step
3
労働基準監督署への届出

といった手順を踏むことが労働基準法で義務付けられています。

ステップ1 労働者代表の意見書を作成する

賃金規程の作成・変更を行う場合、会社はその事業所の過半数を代表する社員の意見を徴収し、意見書を作成します。

過半数を代表する社員(労働者代表)は次の通りです。

1 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合

2 労働組合がない場合は労働者の過半数を代表するもの

上記2は次の要件を満たすものでなければなりません

管理監督者ではないこと

投票や挙手等の手続きにより選出されたものであること

また過半数にはその事業所で雇用されているすべての労働者が含まれます。

従って、正社員のみではなく、契約社員、パートタイマーやアルバイト、嘱託社員といった労働者も含めなければなりません。

労働組合がないような事業場では、労働者代表の専任や意見聴取を疎かにしている会社が見受けられます。

労働者代表を経営者が指名したり、労働者代表に対して「とりあえず協定書にサインしておいて」と言ったように、事実上、意見を徴収していないようなケースです。

適正な代表者選任及び意見聴取を経てないような賃金規程は労基法違反となることもあり注意が必要です。

意見書はあくまで意見書であり、賛成・反対は問われません。

労働者の意見を聞いた、という事実が証明されるものであれば結構です。

ステップ2 就業規則変更届を提出する

意見書作成後、会社は

①就業規則原本

②就業規則変更届

③意見書

以上の3セットを事業所を管轄する労働基準監督署へ提出します。

これらの提出書類は2部ずつ作成します。

1部は受理印を押して会社の控えとして戻されます。

後日、助成金の申請の際など受理印が必要なこともありますので、控えは紛失しないよう保管してください。

注意すべき点は、「届出=内容が認められた」ということではありません。

賃金規程を変更した内容が法令違反及び合理的な内容でない場合、その部分については無効となる可能性があります。

ステップ3 変更後の就業規則を周知する

賃金規定や就業規則は労働者に周知して初めて有効になります。

すなわち、労働基準監督署へ届出だけして、後は、社長の机の中や金庫の中にしまっているような状態で、誰にも見られず保管されているようであれば何の意味も持ちません。

周知とは労働者が必要な時にいつでも容易に確認できる状態であることです。

具体的には

・常時、職場の見やすい場所に掲示又は備え付けられること

・書面を労働者に配布すること

・CDやDVDに記録、または、イントラネットに掲示し、かつ、各作業場に労働者がその記録内容を常時確認できる機器(PC等)を設置すること

賃金規程の保管場所・周知の方法については十分に注意しましょう。

賃金規程の変更に伴う届出手続き3つの注意点

賃金規程は会社の「給与に関するルールブック」です。

会社の状況は変化します、また、法令が改正されて法律で決まっている最低基準を下回る内容となった場合、その部分は無効になります。

そうならないために、賃金規定の見直しをこまめに行うことが必要です。

ただし変更する際には3つの注意点をおさえておく必要があります。

3つの注意点

注意点1 従業員に不利益な変更になっていないか

注意点2 最近の法改正に対応しているか

注意点3 自社の実情に合った内容になっているか

注意点1 従業員に不利益な変更になっていないか

賃金規程の変更を行う際、従業員に不利益な変更になっていないかどうかは非常に重要なポイントとなります。

「不利益変更」とは、会社が一方的に、従業員にとって不利益になる労働条件などの変更をすることです。

最もイメージしやすい例は、「給与を引き下げる」「手当を減額する・廃止する」などです。

給与や手当が引下げられることは、従業員に不利益になるケースがほとんどです。

会社側の説明如何によって、従業員とのトラブルにも発展しかねません。

不利益変更は行わないにこしたことはありません。

しかし、経営上仕方なく行わざる得ない場合もあるでしょう。

賃金規程の変更内容が従業員の不利益になる場合には、理由を従業員に対して充分説明し、同意を得ることが必要です。

特に、賃金を引き下げる場合には、従業員一人ひとりと個別に面談して誠意を持って変更内容を説明します。

そして、不利益変更を承諾する旨の同意書を書いてもらうようにしましょう。

注意点2 最近の法改正に対応しているか

賃金規程を変更し届出の際に注意する点の3つめは

「変更後の賃金規程が最近の法改正に対応した内容になっているか」です。

直近では、政府の働き方改革の一つ「同一労働同一賃金制度」が2020年4月から適用されました。

(同一労働同一賃金とは、職務内容が同じであれば、同じ額の賃金を従業員に支払うという制度です。)

賃金に関わる法律は、最近頻繁に改正されています。

賃金規程を変更し届出の際は、変更後の賃金規程が、最近の法改正に対応した内容になっているかについて専門家のチェックを受けておきましょう。

注意点3 自社の実情に合った内容になっているか

パート・アルバイト・契約社員など雇用形態が多様化しています。

正社員しかいない・・という会社は少ないのではないでしょうか。

しかし、雇用形態区分の違いを考慮せず、正社員のみを対象とした賃金規程を作成し、それでよしとしてしまっている会社は少なくありません。

賃金規程が正社員のみを対象としていると、パート・アルバイト・契約社員の給与体系や賞与、退職金などの条件が不明確としてトラブルのもととなります。

ひとたび問題が発生したときに、正社員以外は賃金規程は適用しないと会社側が主張しても、正社員の賃金規程が適用されることになります。

対処策として、正社員に適用される賃金規程のほかに、パートタイム労働者等一部の労働者のみに適用される別個の賃金規程(例えば「パートタイム労働者賃金規程」)を作成する必要があります。

雇用形態の区分に対応した賃金規程を整備しておかないと、おもわぬトラブルを招くことになります。

そして、「他社の事例を丸写し」したり、「ひな形就業規則」をそのまま使用したりするのも、自社の実態と合っていないことが多くトラブルのもととなります。

賃金規程の変更の届出が必要になる場合

1:固定残業代(みなし残業代)制度を新設する場合

会社が残業代トラブルを経験し、その対応として「固定残業代制度(みなし残業代)」を導入する会社が最近増えています。

固定残業代とは、毎月の実際の残業時間に関わらず毎月固定の残業代を支払う制度です。

固定残業代制度を新設する場合、賃金規程の変更が必要になります。

賃金規程を変更せず、固定残業代のつもりで賃金を支払っていたとしても、実際の残業時間分の残業代を重ねて支払う必要が生じる可能性があるので注意が必要です。

2:手当の新設、廃止など従業員の給与の項目を変更する場合

新しい手当の新設や従来の手当の廃止の他、従業員の給与の項目を変更する場合は賃金規程を変更する必要があります。

3:賃金体系を変更する場合

給与体系の変更の際にも賃金規程を変更する必要があります。

例えば、これまで年功序列型の賃金体系を採用していた会社が、給与体系を見直し、成果報酬型の賃金体系に変更した場合には、賃金規程にもその詳細を記載する必要があります。

賃金規程の変更の届出に必要な書類と書き方

賃金規程の内容を変更し労働基準監督署へ届出する場合、以下の3点をセットにして届出を行います。

1. 賃金規程変更届

2. 意見書

3. 賃金規程 

1. 賃金規程変更届

賃金規程変更届は決まった様式はなく、任意様式となっています。

会社の名称、会社の所在地、会社代表者の職氏名、労働保険番号などが記載されていれば書式は自由です。

(「賃金規程変更届」の書式例は、こちらからダウンロードできますのでご活用ください。)

※ 書式のタイトルは「就業規則届」となっていますが、賃金規程に〇を入れておけば、賃金規程変更届として利用することができます。

2. 意見書

賃金規程を作成、または変更をするときには、労働者の過半数を代表する者の意見を聴くことが定められています。

この意見書は、その労働者の代表者からの意見を聴取した証明となる書類となります。

賃金規程変更届と同様、決まった様式はなく、任意様式となっています。

(「意見書」の書式例は、こちらからダウンロードできますのでご活用ください。)

労働者の代表者に賃金規程に対する意見を書いてもらい、署名・捺印をもらいます。

特に意見がない場合は、「特に意見なし」と意見がないことを記入します。

3. 賃金規程

作成または変更した賃金規程を添付します。

変更の場合は、全てを届出をしなくても、変更になった部分が分かるように新旧対照表などにすれば、全文を添付しなくても構いません。

 

この1~3をセットにしたものを2セット用意し、労働基準監督署へ届出します。

1セットは労働基準監督署に提出し、もう1セットは労働基準監督署で受付印を押されたものが返却されるので、こちらを会社で保管します。

変更した賃金規程を届出しない場合のリスクは?

労働基準法に定められた賃金規程の作成義務または届出義務に違反した場合には、罰則があり、30万円以下の罰金に処することが定められています。

また、賃金の条件等を変更したにもかかわらず、賃金規程を変更しなかったり、変更しても届出をしなかった場合も、同様に30万円以下の罰金になります。

しかし、会社が意識しなければならないことは、罰則があることではありません。

賃金規程や就業規則は、従業員にとって“安心して働ける職場のためのルール”です。

その内容が、会社と従業員との労働契約となることを十分理解しなければなりません。

賃金規定を作成しないことは、会社と従業員との労働契約が明文化されていないということです。

賃金規程を作成しないまま、従業員との間にトラブルが発生した場合は、30万円の罰金以上の大きな損害を及ぼすことになりかねません。

 

まとめ

賃金規程を変更するタイミングは、給与体系の変更や手当の改廃、業績などいくつか考えられます。

その中でも、特に注意しておかなければいけない変更のタイミングは、賃金や残業に関わる法改正があった時です。

中小企業においては、2021年には同一労働同一賃金が、2023年には法定割増賃金の値上げが適用されることになっています。

施行されると同時にしっかり運用できるよう、賃金規程もスムーズな見直し計画が必要になります。

また、賃金規程を変更する場合は、忘れずに給与ソフトの設定も変更しましょう。

この変更作業を忘れていると、未払い賃金が発生することとなり、後々トラブルに繋がる可能性もあります。

賃金規程の変更には、従業員から広く意見を聞き、変更内容が有利・不利を問わず誠意を持って取り組むことが重要です。

そして正しく給与を支払えるよう仕組みの変更も忘れてはなりません。

スムーズに賃金規程を変更できるよう、従業員への配慮もしっかり行いましょう。

そして変更した賃金規程は必ず労働基準監督署に届出をしましょう。

 

神戸就業規則サポートセンターはこれまで100社以上の就業規則の作成・変更の支援をしてきました。

就業規則の作成、改定サービスでは届出、運用面までを丁寧にサポートいたします。

よろしければご相談ください。

 

賃金規程を変更後の届出の際に必要な書式例

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